日本漢字能力検定協会が、毎年12月に発表する「今年の漢字」。
2011年の漢字は……「絆」



「今年の漢字」とは
一年を振り返り世相を表現する漢字一字を考えることで、
皆様に漢字の持つ奥深い意義を再認識していただきたいと考え、
1995年から毎年実施している行事です。
毎年年末に、全国からその年の世相を表す漢字一字を募集し、
最も応募数の多かった漢字は12月12日の「漢字の日」にちなんで12月中旬に、
日本を代表する寺「清水寺」の森清範貫主に大きく揮毫していただきます。
そして、清水寺に奉納する儀式を行います。
この儀式により、「今年の漢字」に託された今年の世相が清められ、
新年が明るい年になることを願っています。

日本漢字能力検定協会公式サイトより)

ということで、今年は過去最高の応募数で、
その中でも最も多かった漢字が「絆」だったそうです。
2位は震災の「災」、3位は震災の「震」、4位は津波の「波」、5位は助け合いの「助」でした。

今年の漢字は「絆」=震災、なでしこなど反映―漢検協会(時事通信12月12日付)
>東日本大震災をはじめ台風やタイの大洪水など災害が相次ぎ、
>人と人の絆の大切さが見直されたことや、
>サッカー女子ワールドカップで初優勝した「なでしこジャパン」のチームワークなどが反映された。


「絆」と揮毫(きごう=毛筆で字を書くこと)した清水寺の森清範貫主の弁。
「絆が選ばれることを予想していた」
「この絆をもって皆さんが一つの心になり、
日本をこれから力づけていただきたいという思いを込めた」
「来年はこの絆を受けて、力の出るような一字になればありがたいと思っている」


ちなみに、過去の「今年の漢字」は下記のとおり。
1995年「震」 阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件
1996年「食」 O-157食中毒やBSE発生
1997年「倒」 山一証券など大型倒産が相次ぐ
1998年「毒」 和歌山カレー事件。環境ホルモン
1999年「末」 世紀末。東海村で臨界事故
2000年「金」 シドニー五輪で金メダル量産
2001年「戦」 米中枢同時テロ。世界的不況
2002年「帰」 北朝鮮に拉致された5人が帰国
2003年「虎」 阪神18年ぶりV。自衛隊イラク派遣
2004年「災」 地震、台風など天災が相次ぐ
2005年「愛」 各界の「アイちゃん」が活躍
2006年「命」 悠仁さま誕生。子供被害事件多発
2007年「偽」 耐震強度や食品の偽装問題
2008年「変」 オバマ氏が米大統領選で当選
2009年「新」 政権交代。公共事業の仕分け作業
2010年「暑」 夏の平均気温が統計史上最高を記録

95年「震」に始まった「今年の漢字」一覧(日刊スポーツ12月12日付)
今年2位の「災」も3位の「震」も、既に過去の「今年の漢字」で選出されていたんですね。

しかし、今年の漢字が「絆」になったことに対して違和感を抱く人も多いようです。
Yahoo!ニュースの意識調査の結果、6割が「納得」、4割が「違う漢字のほうがいい」。
この意識調査に寄せられた反対コメントは、
「『絆』はスローガン的なもの。『今年を象徴する漢字』かといえばちょっと違う」
「クサくて寒い」「ベタ」
「『絆』の語源は、もともと牛などを繋ぐという意味で、
人を束縛する・縛って自由に行動できなくする、という意味だ」
「『災』が合っている」
「多くの人命や財産や故郷がなくなった。『失』だ」
「風評被害で、むしろ『絆』は感じられなかった」
といった意見もありました。

私の個人的意見としては、
「絆」という漢字は好きですし、前向きで思いやりを感じるし、
人との繋がりを改めて認識した年という意味で良いのかもしれない、と思います。
けれど、「絆」と題字を掲げて、綺麗事の美談にまとめあげ、
”今年の総括”みたいな形で、もう終わったこととするのであれば、
なにか違うとも感じます。

NIMBY(ニンビー)という言葉をご存知ですか?
>Not In My Back Yard(自分の裏庭にはあって欲しくない)の略で、
>施設の必要性は認識するが自らの居住地域には建設して欲しくないとする住民達や、その態度を指す言葉である。

Wikipediaより)

東京避難中の福島のパン職人「福島の人作ったパン怖い」に涙(女性セブン2011年8月11日号)
「汚染農産物持ち込むな」 花火、ショップ出店…相次ぐ中止 心ない「風評」拡散(MSN産経ニュース9月24日付)

福島から避難してきた人を「放射能がうつる」と避けたり、
岩手の被災松の薪を送り火で燃やす計画が二転三転して中止になったり、
福島で作られた花火の打ち上げが「放射能をばらまく」と拒否されたり、
福島県産品のアンテナショップが抗議メールで出店断念となったり、
震災瓦礫の受け入れを表明した自治体に反対住民からの激しい抗議が寄せられたり。
東日本大震災の被災地を応援しようと意図したはずが、
かえって被災地の皆さんを苦悩させ、傷つける結果に。
そんなニュースを今年は何度も目にしました。

しかしながら、放射線について様々な意見が飛び交う中で、
それに関する知識が十分でない私には、
「過剰反応で風評被害だ」とも「正当な自己防衛だ」とも論じることはできません。
安全なのかどうなのか、情報が正しいのか誤っているのか、
完全に理解するには難しすぎて、胸を張って自分の意見を主張できません。
結局、何を信じるかは最終的に人それぞれの自己判断、となるのでしょう。
私自身は、この寺田寅彦氏の言葉を肝に銘じたいと思います。
「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、
正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた」


話が逸れました。
今年を表す漢字は「絆」と発表されたけれど、
ほんとうに日本の人達が心ひとつになったのか、絆が強く結ばれたのか、
私には疑問です。
しかし、多くの人が「絆の大切さに改めて気づいた」年であり、
「絆の強まった一年であってほしい」と希望を込めて、
この漢字を選んだのではないでしょうか?

時代の風:放射能とケガレ=精神科医・斎藤環(毎日新聞8月28日東京朝刊)
>ただ、被災地の側に立つ者として、中止の判断を下した人々には一言言っておきたい。
>被災地の「こころ」にかかわるものには、善意を発揮した「責任」が生ずる。
>覚悟と根気なしに「こころ」にかかわるべきではない。
>後腐れのない善意を発揮したい人たち向けには、「義援金」という方法がある。


「絆」……つまり、誰かの”心”と繋がろうとするならば、その相手への責任も発生する。
だから上っ面だけの美辞麗句で「絆」と言うのではなく、
口に出して言うからには、「絆」を結びたい相手への、
それ相応の思い入れと覚悟も必要なのだろうな、と思いました。
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